銃・病原菌・鉄

銃・病原菌・鉄 は、アメリカの進化生物学者ジャレド・ダイアモンド氏が1995年に書いた、人類史の本です。ちょっと古いですが、今でも書店で普通に見かける人気の本です。 人類史の本といえば、圧倒的に人気になったサピエンス全史という本がありますが、雰囲気はあんな感じです。

本書のメインテーマは、 「歴史上、ヨーロッパ諸国がアフリカや南北アメリカを征服したのはなぜか?なぜその逆ではなかったのか?」 という質問に対する究極の答えを探るというものです。なるほど、その答えがタイトルの「銃・病原菌・鉄」なのね。と思ったかもしれませんが、そんな出オチみたいなタイトルつけません。本書が探求するのは、この質問に対する究極の答えです。「銃・病原菌・鉄をヨーロッパ諸国は持っていて、アフリカや南北アメリカは持っていなかったのはわかった。では、そうなったのはなぜなのか?」というのを、どんどん深掘りしていく本です。

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例えば、銃や大砲が発達したのはユーラシア大陸においてであり、アフリカや南北アメリカではなかった理由について。

銃のような複雑な機構のものは、石器のように簡単にはできません(石器だって簡単ではないですが)。前提となる技術、例えば火薬や鉄の精錬技術が必要です。ですが、銃や大砲の発明者は、火薬や鉄を自力で発明したわけではないと考えられます。どこかの誰かが別の場所・時間で発明した火薬や鉄を組み合わせて、銃や大砲を作ったのです。本書の言葉を借りると、技術は自己触媒的に発達し、他の場所へすぐ伝播するのです。 他の場所へすぐ伝播する。実はこれが、本書の重大なキーワードの一つです。ユーラシア大陸の方が南北アメリカ大陸やアフリカ大陸よりも技術の伝達が早かった。それどころか技術以外も、農業や他のあらゆるものも含めて、伝達速度に大きな差が生まれていたことが明らかになります。技術がどのように伝播していくのかの過程、伝達速度の差をもたらした理由、さらにそれを突き詰めた究極の理由については、ぜひ本書を読んで発見してみてください。

みどころ・おすすめポイント

メッセージ性みたいなものはあるけど、それ抜きで楽しむのがおすすめ!

本書の結論めいたものは、言ってしまえば「全ては環境要因だ」ということです。裏を返すと、「それは人種の違いによるものではない」ということであり、本書の根底を流れるメッセージじみたものとして一応は存在します。ですが個人的には、あんまりそういったメッセージ性に囚われず、ただ単に「歴史上、ヨーロッパ諸国がアフリカや南北アメリカを征服したのはなぜか?」を探求していくさまを眺めているのが楽しいと思います。

インカ帝国滅亡のリアルな描写

本書のメインテーマは「銃・病原菌・鉄がユーラシア大陸で生まれた究極の要因」の探究なので、それを使っての実際の南北アメリカ征服はおまけみたいなものなのですが、そのインカ帝国滅亡の際の外交や戦闘の描写が妙にリアルです。この「ピサロがアタワルパを捕らえるシーン」は、ヨーロッパと南北アメリカがぶつかり、その差がはっきりと現れた場面として、本書を象徴するシーンとなっています。本書の表紙絵はその絵らしいです。

好きなエピソードなど

すでに銃の話をしましたが、他に好きなエピソードを3つ簡単に紹介してみます。

書き言葉の発達

私たちが生きている現代では、書き言葉と話し言葉がどちらも発達しています。この二つの発達の歴史をあまり分けて考えたことはないですよね。さすがに「である」調で話す人はあまりいないし、この二つが違うということはわかるけれど。

書き言葉と話し言葉は、どちらが先に生まれたのでしょう?これは結構簡単で、話し言葉の方が明らかに先です。文字誕生以前の人類の歴史は結構長いし、解剖学的に言葉を発していただろうことがわかるし、人間以外も音声によるコミュニケーションをする動物はたくさんいるし、、、などなど甘っちょろい理由でもわかります。

では、筆記ができるようになったから、書き言葉が発達するようになったのでしょうか?これに関してはそんなに単純ではありません。初期の筆記は、「税を誰がいくら払った」を書き留めておく、といった非常に限定された使い道に使用されました。そのくらいにしか使われなかったので、それ以上の高度なこと、例えば詩を書いたり、小説を書いたり、エッセイを書いたり、といったことはできませんでした。話し言葉ではそれがたやすくできるのに。

本書には、現在のような汎用的な書き言葉が生まれる過程が描かれています。書き言葉は、話し言葉とよく対応するように作られています。 現代の言語学者もびっくりするくらい、話し言葉をよーーくよーーく観察して作られている。 この観察は結構骨が折れる仕事です。したがって、世界中でぽんぽんとたくさん文字が生まれるということは起きにくい。だから、世界中にたくさんの話し言葉があるけれど、それに比べて書き言葉(文字)の体系はあんまりないのです。

ウサギの感染症

病原体も(広義の)生物であり、環境に適応して生きていかなければならない運命にあるということをよく表したエピソードとして、ウサギのミクソーマウイルスの例が挙げられています。

19世紀にオーストラリアに持ち込まれ大量発生していたヨーロッパウサギを駆除する目的で、ミクソーマウイルスが使われました。このウイルスはもともと別のウサギに特有のものでしたが、ヨーロッパウサギにも感染し致死性を持つことがわかっていたためです。 これが最初に使われた際には 致死率99.8% という驚異的な威力を発揮しました。ところが、翌年は致死率は90%に落ち込み、数年後には25%にまで落ち込んでしまいました。これは、ウイルスがウサギを完全に殺してしまうと、ウイルスはそれ以上増えたり広まったりすることができなくなってしまうので、そうならないよう適応したと考えることができます。ウイルスもまた、環境に適応しなければならないのです。

環境によっては、技術を放棄することもある

本書の中で何箇所かに分散して書いてあったような気がしてうろ覚えなのですが、
「ある技術を手に入れた文化は、その技術が有用であっても、なんらかの理由でそれを放棄することがある」ということが書いてありました。

その代表例として本書で取り上げられているのが、 江戸時代の日本における銃の放棄 です。そういえば確かに。ポルトガルから銃が伝来して以降、日本の武将も銃を使って戦争しました。本書によれば、国内で銃の生産も始まっていたようです。にもかかわらず、江戸時代の武士が積極的に銃を使っていたイメージはありません。実際、幕府が銃の製造を規制し、また「異国で発明された」ものを軽蔑する風潮があったため、銃は次第に姿を消して行きました。 同様に、オーストラリア・タスマニア島アボリジニも、かつては骨で作った道具や魚釣りを行っていましたが、それを放棄しました。オーストラリア大陸アボリジニは、かつて弓矢を使っていたと思われますが、それを放棄しました。

このような既存の進んだ技術が放棄されたエピソードが、いくつか本書で登場します。

すすめたい人とか

  • サピエンス全史おかわり編として。サピエンス全史を読み切った!という方は、2通り進み方があると思います。1つはハラリ氏(サピエンス全史の著者)を追いかけるという進み方で、もう1つは本書のような人類史を追いかけるという進み方です。サピエンス全史の人類史部分が面白かったという方は、本書をそのおかわり的な楽しみ方ができると思います。ちなみに、サピエンス全史は認知革命という画期的な観点で人類史を振り返るという天才的な本でしたが、本書は(大変失礼ですが)そういう感じではなく、もっと堅実な印象です。もちろん、上述の書き言葉やウサギの感染症のような、読んでてわくわくするエピソードはたくさん入ってます。
    • 正直、本書とサピエンス全史のどちらがおすすめですかと聞かれた場合、迷わずサピエンス全史を(先に読むことを)おすすめします。サピエンス全史の方が天才的な発想で書かれていて、読んでいて刺激が多いためです。
  • 新型コロナウイルス流行後なので、「病原菌」というワードで引っかかって本書に興味を持たれた人もいると思います。本書は病原菌をメインテーマにした本ではないし、かなり大きなテーマという事でもないです。「感染症の歴史」などを読まれた方が良いのではないでしょうか。
  • ここまで語っておいて当然というか今更ですが、人類史好きじゃない人はお勧めしないです。

奥付

銃・病原菌・鉄
著者 ジャレド・ダイアモンド
訳者 倉骨 彰
2013年 電子書籍版発行
草思社