デンマーク幸福研究所が教える「幸せ」の定義

デンマーク幸福研究所が教える「幸せ」の定義』は、デンマーク幸福研究所の所長であるマイク・ヴァイキング氏による2018年日本語版出版の本です。本書では、幸福とはなんなのか?定義できるものなのか?どうやって幸福を測るのか?などの幸福研究の成果や過程を紹介しています。

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本書を手に取ったきっかけ

「サピエンス全史」「ファスト&スロー」「幸せをお金で買う 5つの授業」の流れで、幸せについて既に判明している研究成果について知りたくて図書館に行ったら本書と出会いました。

以下では、本書を読んで印象に残っている箇所について短めに2点だけ書いてみます。

「幸せ」という言葉は抽象的だ

本書ではまず、幸せという言葉が指す対象はなんなのかについて考えています。よく「人の数だけ幸せがある」とよく言いますが、それは大抵幸せの要因が複数あることを意味していて、(同じ国の中では)幸せという言葉の指す内容はだいたい同じであるようです。ただし、それでも幸福とは何かを一言で表したり、1つの数値として表すことは難しそうです。それは、 幸せという概念が健康と同じように、複合的・抽象的な概念であるから です。

幸せという概念にはいくつかの次元がある

現代の国際的な幸福度調査では、次の3つの幸福の次元を採用しています。

  1. エウダイモニア。これは意味のある人生を達成すること・自分より大きなものの1つになることを意味します。エウダイモニアという言葉は古代ギリシャ語で、この考え方はアリストテレスの幸福理解に基づいています。
  2. 認知的な幸福の次元。これは過去の人生をふりかえり、人生が幸せだったかどうかを評価するものです。
  3. 情動的な幸福の次元。これは直近1日など短期的に瞬間を振り返り、幸せであるかどうかを評価するものです。

なんとなくわかるかもしれませんが、例えば薬物などを使って情動的な幸福感を仮に極限まで高め続けることができたとしても、認知的次元で人生を振り返った際には「私の人生は幸せだった・・・」とは思わないでしょう(これをなんとなくの理解ではなくするのが幸福度調査なのでしょうが・・・)。 このように複数の幸福の次元を考えることで、例えば「幸福度アップに効果がある」といった際に言葉の理解の齟齬を防げそうです。

そうそう余談ですが、こういった幸福に関する積極的な探求に関連する学問の名前はポジティブ心理学って言うそうです。本書でついにわかりました。これまでも聞いたことがひょっとしたらあったのかもしれませんが、胡散臭い名前(失礼)なのでスルーしていたかもしれません。今私が一番興味がありそうなのはポジティブ心理学のようです。次読む本はそれ関連になりそう。

幸福を主観で評価していいのか?主観で評価するしかないのか?主観で評価するのがベストなのか?

自分以外の人間が幸福なのかを調査する際には、普通に考えたら幸福かどうかを聞き取りするのが一番だと思いがちですが、本当に 幸福を主観的な報告に基づいて評価するのは科学的に信頼できるのでしょうか?

OECDの主観的幸福を測る上でのガイドラインによれば、主観的な幸福度の調査は有効で信頼でき、政策判断などに活用しても大丈夫とのことです。ちなみにこのことは、幸福にプラス/マイナスの影響を及ぼしそうな事柄が実際に主観的に影響していることを確かめる、という手法で確かめられたそうです。

とはいうものの、主観的幸福の報告には欠点もあります。

1つ目は、先に紹介したように、幸せには複数の次元があるということです。何が幸福に影響を与えているかを調べるには、それがどの次元の幸福に影響を与えているかに注意することが必要です。

2つ目は、例の「経験する自己」と「記憶する自己」問題です。これは当ブログではファスト&スローのところで紹介したので省略。

3つ目は、それがわかったところで因果関係がわからない問題です。よく「相関は因果関係ではない」と言われますが、それと同種の指摘だと思います。「コホート研究により、少しずつ因果関係もわかりつつある」と書いてありましたが、ここら辺はあまり詳しくないので理解しきれませんでした。追跡調査みたいなものかな?

何が幸せに影響を与えるか? — 自力ではどうしようもない部分もある

幸福度調査から、何が幸福に影響を与えがちで、何はそれほど影響を与えないか、共通点が見えてきました。

自分にはどうしようもできないこと

大変残念なお知らせなのですが、(主観的)幸福において自分ではどうしようもない要因がかなり働いていることがわかりました。 それは遺伝子です。幸福のうち50%程度が遺伝により決まる可能性があるそうです。 双子を対象にした研究によれば、一卵性双生児が異なる境遇で育った場合には2人の幸福度に相関があり、二卵性双生児の場合は相関がなかったそうです。

自分ではどうしようもない要因はまだあります。生まれた国は幸福度に大きな影響を与えますが、どこの国で生まれるかを選ぶことはできません。

それから年齢も、予測はできるもののコントロールはできない宿命的な要因です。 中年が最も幸せでない、ということがわかっています。しかもこれはチンパンジーやオランウータンなどの大型類人猿も同じらしいです! ただしこれは長期的(認知的幸福)の話であり、短期的なポジティブな感情はあまり年齢により影響を受けないそうです。短期的なポジティブな感情は19歳と39歳ではあまり変わらないようです。でも60歳を超えるとポジティブな感情は微減はするみたいです)。一方でネガティブな感情は年齢を重ねるごとに着実に減ります。おそらく、ネガティブな影響を与えられるような状況を避けたり、身の回りをカスタマイズできたりするのも一因と思われます。

このように、幸福について自分ではどうしようもない部分はたくさんあるものの、自らの選択により幸福をより感じる術が失われたわけではありません。 本書では、この残りのコントロール可能な幸せを感じるためのヒントについても、しっかり1章とって説明しています。

自分ではどうしようもない領域があるという事実を頭の片隅に入れておくことは、自分が今後惨めな思いをしたときに周りの人間や過去の自分と比べないための指針となってくれそうです。

奥付

デンマーク幸福研究所が教える「幸せ」の定義
著者 マイク・ヴァイキング
訳者 枇谷玲子
晶文社
発行 2018年